(草の根通信63号、2010年1月掲載)
田中淳子: サンフランシスコ・クラレンドン小学校教員
「田中先生、元気?今でも万次郎のこと思い出してるよ。」ある晩、卒業した教え子の一人がフェイスブックを通してチャットしてきました。2年前の学芸会で、彼が万次郎の役を演じたのです。何年たっても、クラス全員がひとつになって万次郎の劇を成し遂げたことが、小学校の楽しかった思い出となっていて、とてもうれしく思いました。
私がサンフランシスコに移住してもう10年になります。現在公立クラレンドン小学校日本語プログラムで4年生担任をしています
が、アメリカに住む移民の一人として、大多数の中でなく少数民族の一員として生きることを、さまざまな形で学んできました。ここに住む子どもたちは、多様な人種と文化の中で生きています。自身のルーツを探り、民族意識やそれぞれの文化への尊敬の念を培い、日本人、日系人として、またどの人種であっても、誇りを持って生きることはとても大切なことです。そのためには、歴史を学ぶことは欠かせないことであり、教師として、歴史をいかに興味深く教えられるかは大きな課題ですが、歴史的事項を劇に取り入れることで、子どもたちの理解が深まると共に感動深く心に残っていくことを確信しました。
クラレンドン小学校の学芸会は、大きな学校行事のひとつです。今年も万次郎の劇を通して、彼の勇気ある生き方、日本開国時代に与えた影響と業績、そして日米関係の歴史を伝えるとともに、クラスのチームワークを育てる取り組みにしようと決めました。一カ月ほど前から子どもたちとともに万次郎のノンフィクション「shipwrecked!」の読解をしながら、役へのアイデアを出し合い、一人一人の思いを入れながら、場面ごとに台本を作っていきました。嵐で漂流、鳥島での暮らし、アメリカ捕鯨船の救助、アメリカでの教育、カリフォルニアゴールドラッシュ、帰国、取り調べ、そして最後に著名人からの万次郎の業績を称えるスピーチで締めくくりました。コメディも交え、特に万次郎も歌ったという「おおスザンナ」をとり入れたカリフォルニアゴールドラッシュは、社会の体験学習で習ったこともあって大いに盛り上がりました。また、2010年の咸臨丸訪米150周年記念を祝うために、オバマ大統領、勝海舟、福沢諭吉などの役を作ったりしました。
子どもたちは、私の厳しい練習も苦にせず、毎日喜んで取り組み、12月17日学芸会本番では、見事なチームワークを発揮し、立派に演じきりました。多くの観客からは「とても面白かった」「上手だった」といった反応がありましたし、何人かからは「万次郎はすごい人で大人として勉強になった」「子どもの成長ぶりがうかがえた」など、内容としても子どもの演技としても絶賛する声が多く、教師としてこの上ない喜びを感じました。
サンフランシスコ草の根交流サミットでまた演じる機会をいただけたことを、子どもたちは大変楽しみにしています。いまだに万次郎とホイットフィールド船長の家族の方々が何代にもわたって友好関係を続けておられること、子どもたちは感動しておりました。ご家族の方にお会いできること願っています。