(草の根通信63号、2010年1月掲載)
平野貞夫: (有)土佐南学会・代表取締役、CIE評議員
「政権交代」が、2009年の流行語大賞を受賞したが、もうひとつ鳩山由紀夫首相が「流行」させたフレーズがある。
それは、「友愛」である。「友愛」といえば、鳩山一郎元首相が提唱した運動だと知られている。鳩山由紀夫・邦夫兄弟の祖父である。戦後の昭和27年、政界復帰の演説で「友愛革命」を主張したのが始まりだ。米国の思想家、エマソン(1803年~82年)の「人類愛」や孟子の「惻隠の心」などを説き、民主主義の確立のため「智」の必要性を主張し、智がないと衆愚政治になると主張している。
この思想は、政治論としてフランス革命の「自由・平等・博愛(友愛)」や、クーデンホフ・カレルギーの主張だといわれている。
歴史的には、ユニテリアン信仰が原点である。正統派のキリスト教徒が信ずる「三位一体」(Trinity)を否定し、「神の唯一性
(Unity)」を信ずる人々(Unitarian)が発祥で、異端視されてきた。近代となって米国で盛んとなる。
ユニテリアンは万人救済を教義とする。異宗教間の交流には積極的で、自由と理性と寛容を重んじ、権威への盲従を嫌う。エマソ
ンらが中心で、「自然と神と人間が究極的に同一のものに帰する」という汎神論を主張し、東洋の宗教や思想に強い関心を示した。
草の根デモクラシーや奴隷解放運動を推進し、リンカーン大統領らが理解者であった。
エマソンが活躍していたころ、日本の漂流少年、ジョン万次郎が米国東部のフェアヘイブンで、救助したホイットフィールド船長の好意により教育を受けていた。船長は、日曜日にいつもの教会に万次郎を連れて行き、町の名士たちの家族席に座ろうとする。しかし、黄色人種の万次郎は黒人として扱われ、教会に連れてくるのを断られた。船長は万次郎を受け入れてくれる教会を探し、宗派を変えて「ユニテリアン教会」に行くことになる。万次郎少年は、捕鯨船の船主で、ユニテリアン教会の信者代表であったワーレン・デラノ(フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領の祖父)に可愛がられ、ユニテリアン信仰を深めていった。
米国でのユニテリアン運動の発祥は、1620 年にメイフラワー号で英国を去り、マサチューセッツのプリマスに上陸した清教徒が結成した「会衆派」をルーツとしている。フェアヘイブンはプリマスの目先である。万教同根という縄文古神道のDNAを持つ万次郎とは不思議な縁である。万次郎は日本人で第 1 号のユニテリアンとなったが、帰国後、幕府や土佐藩などで説明した米国の政治や社会、産業などの話は、エマソンらの草の根デモクラシー、ユニテリアンの思想であった。その影響を受けたのが、坂本龍馬であり、勝海舟、福沢諭吉らであった。
2010 年の日米草の根交流サミット大会は、サンフランシスコ・ベイエリアで開催される。奇しくも、今年は日本のユニテリアンたち、すなわち福沢諭吉、勝海舟、そしてジョン万次郎たちを乗せた咸臨丸がサンフランシスコ港に到着してから 150 周年という年だ。資本主義の危機である現在、万次郎がアメリカから学んだ友愛を、日米の再生に活用すべき時ではないか。